全体として労働組合の最低賃金闘争が低調な状況下で、最低賃金の後退がみられる。
02年の地域別最低賃金の改定状況をみると、「引き上げ額ゼロ」が20県に及んでいる。
あと17県では時間額で一円アップという据え置きに近い状況である。
ちなみに時間額の全国加重平均は、665円である。
これではパート労働者などの極度に低い市場賃金を押し上げるというよりも、それを固定化ないし引き下げるという「重し」の役割すら果たすであろう。
いまや日本の最低賃金制は賃金の底上げという改良的機能を捨て去り、賃下げ機能に重点を移したと判断せざるをえない。
また、02年度から「時間額単独方式」に変わった点も、生計費との関連をますます希薄にするものであり、明らかに最低賃金制の後退といえる。
月額、日額を示すことで生計費との比較がしやすいが、02年度から最低賃金法も無視して時間額のみの表示になった。
ほかにも、賃金問題で見逃すことのできないことがある。
賃金の未払いが増加していることだ。
02年に「賃金が適正に払われなかった」として労働基準監督署が指導した事業所数は、東京と千葉で過去最高となった。
倒産企業の従業員に対し、国が未払い賃金を立て替え払いした額も、02年度は東京、神奈川など4都県で過去最高だった。
まだまだ広範な賃金未払いが続くと考えられる。
「国や自治体の歳出削減や、企業のリストラの影響が関連企業にも及んできていることが、中小企業の賃金深刻化する労働時間の現状をみよう。
この国の労働時間が「先進国」のなかでとくに長いことは、よく知られている。
第一に、不況にもかかわらず、リストラによる人員削減のもとでサービス残業が増大し、いっそう深刻な長時間労働となっている。
第2に、経済のサービス化・国際化・IT化を背景に労働時間規制の弾力化(労働基準法の改定を基本に)・経営の極度の効率化・スピード化のために、深夜に及ぶような不規則な労働時間や変形・みなし労働時間などが、それらのさまざまな「ヤミ形未払い増加の背景にある」(「N新聞」03年5月13日付)。
全労連の労働相談には「ボーナスが支払われなかったので、支払うよう上司に文句を言ったら解雇された」など、個々には驚くべきケースが無数にある。
後述するように、残業代の未払いが広範な企業で目立つ。
以上、賃金問題の特徴をみた。
近年、年功賃金の崩壊が急激にすすみ、賃金決定が労働者個々人に「個別化」される傾向がいよいよ顕著になっている。
また、「総額人件費管理」が徹底し、個々の賃金操作もその一環と位置づけられていることも見逃せない。
「高コスト構造の打破」、「国際競争力の強化」のスローガンのもとに、さまざまな形態で賃金破壊攻撃が財界・経営者によっておこなわれ、これに政府が人事院体制を通じて、さらに最低賃金制の変質攻撃などで呼応しているという構図がますます鮮明になっている。
第3に、成果主義化など人事労務管理の強化によって、労働強化がすすみ、以上3点の複合が労働者のストレスを蓄積させ、また労働者の生活時間を圧迫し、結局、精神障害を含むいろいろな健康破壊の直接の引き金・要因となっている。
これらの点をやや詳しくみておなるほど統計上、80年代と比べると「時短」がすすんでいるようにみえるが、それはパートなど短時間労働者が増えたためで、「正規労働者」の労働時間は現在でも年間2000時間を上まわっている。
厚生労働省が2003年8月20日に発表した「サービス業就業実態調査」によると、サービス業で働く労働者の41・3%が「今の会社や仕事に満足していない」と答えている。
その理由(複数回答)の上位3つは「精神的なストレスが強い」(52・7%)、「給与がよくない」(42・0%)、「有給休暇が取りにくい」(31・0%)となっている。
一つ目の「精神的なストレスが強い」という答えの背景には、企業間競争の激しさ、成果主義化による個別管理の強化などとともに、サービス残業を含む不規則な長時間労働があることは疑いない。
消費者金融の大手「武富士」は、御木さんら従業員の残業代支払いを求めた裁判や大阪労働局の強制捜査などの結果、従業員と退職者約5000人に残業代35億円を支払った。
武富士では、「毎月の残業時間が100時間を超える男性従業員も多かったが、同社は当時、従業員の毎月の残業時間について、男性は25時間、女性は6時間という上限を就業規則で設定。
各支店を通じ、上限を超える時間を出勤簿に記載しないよう指示していたとみられる」(「N新聞」03年7月28日付)ということだ。
これは氷山の一角にすぎず、労働基準監督署が2002年に割増賃金を支払わないサービス残業の是正指導をおこなった件数が、過去最高の一万7000件余りに上っている。
定期監督を実施した事業場は13万1878件で、そのうち62・7%の事業所で労働基準法違反が見つかったという。
労基署の勧告に応じないなど悪質で書類送検された件数が49件に上った。
これは毎年一桁だった90年代と比べると、5倍以上に増えたことになる。
前記の厚生労働省「サービス業就業実態調査」で、会社への不満として「有給休暇が取りにくい」という答えも多かった。
有給休暇の取得率が96年以降、連続して低下している。
リストラによる人員削減で有給休暇が一段と取りにくくなっているのだ。
厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、01年(1年間)に正社員が取得した年次有給休暇の取得率は48・4%と過去最低を更新した。
会社が決めた有給休暇の日数は18・1日と過去最多だったのに対し、実際の取得日数は6年連続減と、制度と実態の飛離が目立っている。
さらに最近の特徴として、新入社員も「即戦力たれ」と尻を叩かれ、いきなり深夜労働・休日出勤が課されている。
かれらの「残業月70〜150時間は当たり前」だとして、つぎのような具体例が示されている。
第一の例。
昨春大学を卒業した23歳の女性である。
彼女は小さなリフォーム会社に入り、電話での営業と製造施工管理の仕事に就いた。
仕事が少しできるようになると、次々と他の仕事も任された。
平日は午後一時、週末は午前10時から、深夜の2時、3時までの勤務。
自転車で5分のアパートへ帰る道すがら弁当をコンビニで買う生活。
深夜でも、翌朝の工事の準備、原価計算、職人へのファックス連絡などの仕事が途切れない。
残業は月70〜150時間に上った。
昨秋からノルマをこなせないと休日出勤を強制されるようになった。
今年1月には平日の出勤が午前9時に早まった。
緊張が続き、ちょっとしたことで泣き出すようになった。
2月、耐えきれなくなり、休憩で社外に出たまま、辞職した。
手取りは多くて月13万円で残業代が出たことはない。
第2の例。
東京都内の高校を今春卒業した18歳の男性は、5月半ばに会社を辞めた。
就職活動で4社落ち、ようやく内定をもらった会社。
求人票には勤務は午前9時〜午後5時とあった。
仕事はイベント会場の設営関係だが、労働時間はめちゃめちゃだった。
初日から帰宅が午後9時過ぎになり、怒った父親が「辞めっちまえ」と叫んだ。
3、4時間の睡眠で午前4時に出社したり、日曜日もほとんど休めなかった。
残業代はわずかで、出張で移動した日は休日扱いにされた。
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